建物の耐震診断をしたところ震度6以上の地震が発生すると倒壊の危険があると診断されたので建物を建替えたいが、賃借人が出ていってくれないという相談を受けました。賃貸借契約を拒絶するには、正当事由がなければいけませんが、建物の耐震性能が不足していることを理由に更新拒絶をすることが正当事由として認められるでしょうか。

昭和56年6月に建築基準法の改正により耐震基準が大幅に強化され、それ以前に建築された建物は耐震性が不足している可能性が高いと指摘されています。また、東京都などでは緊急輸送道路の沿道の建築物の耐震化を推進するため条例により地震発生による緊急輸送を円滑に進めるため緊急輸送道路に指定された沿道の建物には耐震診断を受けることを義務化し、耐震補強を促進させる諸施策を講じています。
そのため最近はこのような理由で明渡しを求める事案が多くなっています。

多くの裁判例では、耐震補強をするには多額の費用がかかりすぎて建替の必要があるとしても、賃借人が店舗を経営するなど生活の資本となって建物使用の必要性があれば、立退料の支払で正当事由を保管しない限り、建替の必要性だけでは正当事由があるとなかなか認めてくれません。
裁判例の中には耐震性が不足しているだけで取り壊し後には駐車場にするだけで具体的な計画を立てていない事案では取り壊しは急務ではないとして正当事由を否定した判決もあります。

耐震性能が不足しているというだけではなく、耐震補強をするには多額の費用がかかるため建替をする現実的具体的な必要性がなければなりませんし、その場合でも立退料の支払とあいまって正当事由を補完して明け渡しが認められるということになります。また、立退料には借家権価格を考慮した相当な補償、店舗移転費用、休業補償などが考慮されます。

東日本大震災以降、大震災の発生が懸念されていますが、耐震補強に現実的でない費用がかかり建替が必要な場合、賃借人に対する相応の経済的配慮があれば建物の明渡しが認められるようになったと言えるのではないでしょうか。 

弁護士菅野利彦